English

今月のDARTS

16年間封印されていた事実

4U0142-68 4U0142+61
図は鈴木健介氏提供

1990年9月12日、日本の「ぎんが」衛星は、4U0142+61というX線天体を観測しました。当時、この天体は、低エネルギーの(温度の低い)特徴的なエネルギースペクトルを持つことから、ブラックホールだと考えられていました。

ブラックホールは中性子星よりも質量が大きく、シュバルツシルト半径も大きくなります。X線を出している円盤の内縁半径も、それに従ってブラックホールの方が大きくなります。円盤が中心天体から遠ざかると温度は低くなるので、中性子星よりもブラックホールの方が低エネルギー側にピークを持ったエネルギースペクトルを示すのです。

当時、「ぎんが」の4U0142+61データを解析した大学院生は、これがブラックホールの典型的なエネルギースペクトルか、と納得しました。その後、このデータに興味を持つ研究者もなく、やがて「ぎんが」衛星は徐々に高度を下げて行き、1991年11月1日には遂に地上と交信不能になりました。

「ぎんが」の寿命が尽きた後、4U0142+61は、二度大きな注目を浴びることになります。1993年、イタリアの研究者たちが、ヨーロッパのEXOSAT衛星が1984年に取得したデータを解析していたところ、4U0142+61から8.7秒の周期性を発見しました。これは、星が8.7秒周期で回転していて、それにともなってX線を放出している星の表面が見え隠れしていることを示しています。ブラックホールに表面はないので、決してパルスしません。4U0142+61は、ブラックホールではなく中性子星だったのです!

さらに10年後に、もう一つの驚きがありました。2004年、ヨーロッパのINTEGRAL衛星が、20-100 keVの高エネルギーX線領域で4U0142+61が明るく輝いていることを発見したのです。4U0142+61は、10 keVまではエネルギーが上がるに連れて急速に暗くなっていきます。実はそれと同時に、20keV以上の高エネルギー側では非常に強いX線を放出していることがわかったのです。

時は流れ、最初に「ぎんが」の4U0142+61データを解析した大学院生は、長年海外で研究生活を送った後、宇宙科学研究本部に戻り教授になりました。ふと思い出して、彼の学生に「ぎんが」の4U0142+61データを16年ぶりに解析してもらいました。注意深くデータを眺めて見ると、ちゃんと8.6875秒のパルスも(上左図)、20 keVより高エネルギーの放射(上右図)も見えているではありませんか!

「ぎんが」アーカイブスから得られた、「16年間封印されていた事実」は2007年3月の日本天文学会で発表されました。今では4U0142+61は、「マグネター」と呼ばれる、非常に磁場の強い中性子星だと考えられています。マグネターは宇宙で一番強力な磁石です。私たちが日常使うマグネットの1000億倍程度の磁場を持っています。

2007年4月

最終更新日: 2018年06月13日