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今月のDARTS

「あすか」衛星による天体カタログ作り - 銀河団カタログ

天体データを一つ一つ解析することで、その天体の性質を知ることができます。 これに加えて、いくつかのデータを統一的に解析することで、天体カタログを作ることができます。 カタログは、特定の天体種族についての統計的な性質を調べるのに役立ちます。 科学論文とともに、天体カタログは、重要な科学的財産です。

日本の4番目のX線観測衛星「あすか」を用いた銀河団カタログを紹介します。 「あすか」の観測データは、すべて DARTSに保存されています。 1993年に打ち上げられたこの衛星は、天文学のいくつかの分野で新しい発見をもたらしました。 その中の一つに、銀河団の取り囲む高温プラズマの構造(密度、温度、金属量)を精密に測定したことが上げられます。 銀河団は、100-1000個の銀河の集まりで、宇宙最大の構造(半径 300万光年程度)です。 X線で初めて見ることのできる高温プラズマの質量は、銀河の中の星の総質量を上回ります。

太田研究員(宇宙研)らは、DARTSにアーカイブされていた79の銀河団のデータを用いて、X線銀河団のカタログを作成しました。 「あすか」に加えてドイツのROSAT衛星のデータも合せて用いることで、より精度の良いカタログができました。 X線の画像(図1)から高温プラズマの空間分布を調べることができます。 また、X線のスペクトル(図2)から、プラズマの温度と重元素量を知ることができます。

A1689 HRI image A1689 ASCA spec
図1(左): 銀河団のX線イメージ: ROSAT衛星による銀河団Abell 1689のデータ。 図はすべて太田氏による提供。
図2(右): X線スペクトル: 「あすか」衛星 GIS検出器(赤), SIS検出器(青)による銀河団Abell 1689のデータ。

このカタログから、とても興味深いことが見つかりました。 それは、図3にあるようにプラズマの空間分布の様子が二つのタイプに分かれることです。 銀河団の質量の大部分は、暗黒物質によって占められています。 暗黒物質には、重力しか働きません。したがって、銀河団の構造の進化は、ほとんど重力によって支配されているはずです。 そうであれば、どの銀河団も初めの質量分布を種に、同じように進化するはずです。太田氏の発見は、この単純なモデルでは説明できません。 重力以外の働きが、銀河団の進化に大きな影響をおよぼしていることを、見事に示しています。 何がこの二つのタイプの銀河団を作っているのでしょう? ある銀河団には暗黒物質の固まりがあるのでしょうか? ある銀河団の中心ではX線の急激な放射によってプラズマが中心に集中しているのでしょうか? 完全な答えはまだ得られていません。 最新の衛星での観測や大規模構造シミュレーションによって、近いうちに答えがわかりそうです。

rc hist 図3(右): 銀河団のコア半径分布。コア半径とは、銀河団の輝度分布を標準的なモデル(ベータモデル)でフィットしたときの典型的なサイズ。分布の中心集中度を表す。log[R/Mpc]が-0.3と-0.7のあたりに二つのピークがあることが分かる。 これらは、半径 50 kpcと200 kpcに相当する。

この研究について詳しくは、以下をご覧ください。

論文タイトル 著者 天体種別 サンプル数
A uniform X-ray analysis of 79 distant galaxy clusters with ROSAT and ASCA Naomi Ota and Kazuhisa Mitsuda 銀河団 79

田村隆幸 (ISAS/JAXA)

2008年1月

最終更新日: 2018年06月13日