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今月のDARTS

科学データ音声化プロジェクト

科学衛星のデータを見るとき最も使われている方法は、データをグラフで表示し、視覚化して内容を確認する、というものでしょう。
でももし目が見えなかったら、どうしたらいいでしょうか。
我々は、宇宙を解明する最先端の科学データを、視覚障害のある人と共に扱うことのできる環境作成を目指して、科学データ音声化プロジェクトを推進しています。これは、日本福祉大学宇野研究室宇宙航空研究開発機構/PLAINセンターの共同プロジェクトです。

  • 光度曲線

  • 音声化したものの一例として、パルサーの光度曲線を図1に示します。
    パルサーは、高速で回転する中性子星の磁極が自転に伴って地球の方向を向くことで、X線強度の周期的な変動が観測されるものです。

    図1:ASCA の観測したパルサーの光度曲線
    図1:ASCA の観測したパルサーの光度曲線

    図1は周期 4.8 秒のX線パルサーの光度曲線を、その周期で折り畳んで表示したものです。

    これを音声化したものがこちらになります。図1の横軸(時間)が、音の継続時間、縦軸(X線強度)が、周波数に対応しています。周期的な変動を2周期分聞き取ることができると思います。
    昔のSF映画に出てくる信号のような音に聞こえますが、これは科学衛星の取得した本物のデータです。
    音の継続時間は実際の観測と一致させてありますので、ここではパルス2周期分の実時間となります。
    太陽と同じくらいの重さの星がこの音が鳴っている間に2回転していると思うと、図で光度曲線を見るのとは違う 宇宙のスケールを感じることができるのではないでしょうか。

  • スペクトル

  • もうひとつ、X線スペクトルを音声化した例を示します。
    図2 は SUZAKUの取得したX線スペクトルです。

    上の段が実データとモデル、下の段が残差を表しています。
    横軸はX線のエネルギーです。左右ともデータは同じもので、モデルのパラメタだけを変えてあります。
    図2左は、データとモデルはほぼ一致しており、残差もほぼ一定です。
    一方図2右では、データとモデルは一致しておらず、残差も波打っています。

    この二つの図の差を聴き比べてみてください。以下の音声ファイルは、それぞれの図の1.モデル、2.データ、3.残差を音声化したものです。

    左図:Suzaku によるX線スペクトル。スペクトルとモデルが合っているものの例 右図:Suzaku によるX線スペクトル。スペクトルとモデルが合ってないものの例
    図2:Suzaku によるX線スペクトル。左がスペクトルとモデルが合っているものの例、右が合っていないものの例

    左図 : データの音 :右図 : データの音 :
    左図 : モデルの音 : 右図 : モデルの音 :
    左図 : 残差の音 :右図 : 残差の音 :
    残差同士を比較して聞いてみると、データとモデルが一致している場合としていない場合の差がよくわかると思います。
    また、モデル同士を比較してみると、「二つのモデルが違う」ことを聞き分けることもできるでしょう。


科学データを音声化するといろいろな面白い音が聞こえてきます。
またこれは、データを視覚障害者に理解してもらうためのひとつの試みにもなるでしょう。
ただし、我々が目指しているのは教材作りではありません。

科学データ音声化プロジェクトのページにも書きましたが、視覚情報に頼らず図表を読みとることは想像以上に大変なものです。
しかしそれでも、図表を読み取ろうと努力する人達がいます。そして彼らは、場合によって晴眼者よりもはるかに正確に図表を理解します。
私はその感覚の鋭さに驚くことがあります。その彼らと最先端の科学のデータを共有したいと思っています。

視覚に頼らずに何かをするのではなく、聴覚に頼って宇宙をリサーチしていくこと。
そこに新しい宇宙が聞こえてくるのではないかと私は期待しています。


日本福祉大学 福祉工学科
宇野伸一郎

2009年6月

最終更新日: 2018年06月13日