太陽系科学研究系(月惑星科学) 山本 幸生 准教授

Q:研究者を目指したきっかけは?

子供の頃から宇宙が大好きだった人が多いと思うのですが、私の場合は20歳ぐらいで、 大学の授業でCOBE衛星という、宇宙背景放射観測衛星の話を聞いたのがきっかけです。物理法則と宇宙の観測がこんなにきれい合うんだって感動しました!そこからNASAとかいろんな宇宙に関することに興味を持ちました。私はエンジニアリング的なことが好きだったので、観測機器に携われる大学院の研究室を選んで進学しました。

Q:宇宙に興味を持つ前は何を目指していた?

ソフトウェアが大好きなので、プログラマーとか、IT系に興味を持っていました。最初にパソコンを買ってもらったのは10歳の時です。まわりはみんなファミコンを買ってもらっているのに、自分だけパソコンでした。ドラゴンクエストをクリアするために友達の家に通いました。パソコンでゲームもしていたのですが、すぐに飽きて、プログラムにのめり込みました。両親が教育熱心だったと思います。他にもスケート、ピアノ、そろばんなどいろいろやりましたが、一番ものになったのがパソコンですね。今でも大好きです。

Q:JAXAで働くまでの経歴は?

月惑星、NASAの衛星や探査に興味があったので、大学院は地球惑星科学を選択しました。当時、修士を出たら就職しようと思っていましたが、日本学術振興会の特別研究員に通ったこともあって、博士課程への進学を決めました。修士2年のときに実家の中華料理屋が倒産してしまい、自分で稼がなきゃいけなくなりました。収入のいい仕事を探して、自分の得意分野であるプログラマーをやっていました。その時の経験が今に活きている感じですね。
大学院を出た後はJAXAの研究員として研究していたのですが、2003年のJAXA統合で研究員の職がなくなってしまい、2004年の3月にそのまま退職しました。その時ちょうどベンチャーブームだったんですね、ホリエモンや三木谷さんや、ベンチャーが勢いづいていたころなので、それへの憧れもあって、友達に誘われてセキュリティのベンチャーを始めました。ベンチャーでは様々な企業との関わりや、社会人としての姿勢、マナーを経験し、とても勉強になりました。仕事は絶好調で、給与も非常に高かったので大満足だったんですが、小泉政権が月探査に力を入れ始めたんですね。それで月探査の研究者を集めよというお達しが下り、私にも戻ってこないかと声がかかりました。ベンチャーに残るか、研究者に戻るか、悩みましたが、結果的にどっちが楽しいかで選びました。きっかけとなったのは、はやぶさ初号機とSELENE(かぐや)という月探査ミッションです。ベンチャーはおそらくいつでもできる、でも探査機は今その時しかできないのでこちらを選びました。

Q:JAXAとベンチャーの違いは?

仕事のスピードですね。ベンチャーだと3日で物事を決めて進むことに、JAXAは稟議にかけたり色々な人の意見を聞いたりと、3か月くらい時間がかかります。大変だなと思ったのは、新しいことをしようとすると、なかなかできないことです。金額と意義のバランスが重要視されますね。でも、一旦GOがかかると一気に仕事が進みます。小回りが利かないところはありますが、宇宙機や衛星、探査機のそばで、色々なものを触りながら、経験しながら仕事ができるというのは非常に良いですね。

Q:研究について聞かせてください。月惑星科学とは?

月惑星科学は、比較惑星学です。月惑星科学にも種類があって、地球や金星などの大気を対象にしている研究を柔らかい分野(惑星大気)、地表面や内部を対象にしている研究を固い分野(固体惑星)と言っています。地球を知るためには地球だけ見ていてもダメで、地球と火星で何が違うか、地球と水星、金星で何が違うかを比較することで、地球の姿が見えて来るというのが、基本的な月惑星科学の考えです。月惑星科学のテーマの一つは、地球はどのようにできたか、材料となる物質がどのように育って進化したかです。地球の水はどこからきたのか、というのは重要な月惑星科学のテーマですが、近年は、我々はどこから来たのか、また生命の宇宙における役割など生命に関する疑問も月惑星科学の重要なテーマの一つとなっていて、アストロバイオロジーと言います。
科学というのは、何が正しいかを解明することが必要です。ではそういったことをやる時に、科学として一番重要なことは何かというと、証拠に基づいてストーリーを作り、解明するということで、解明するまでが科学だと思っています。理論屋さんはよく、芸術家のように死んでから認められたりするわけですね。自分の一生では全く解明できる規模ではない分野でもあったりします。そういった時に大事になるのが、データなんです。科学は、結果を全世界どの時代でも検証できるように残しておかなきゃいけない、検証するまでが科学なので、自分ひとりではできることに限りがあるので、全人類の力を使って物事を解明していく、その一員となるのが今の科学者の一つのあり方だなと思っています。そのための基礎となるのがデータです。

Q:DARTSで公開している月惑星科学のデータを教えてください。

Apollo月震計データ


私はやっぱり、身近な月を推したいですね。先ほどお話した通り、答え合わせをするまでが科学だと思っていて、近いということは答えを得やすいということもあるので、自分が生きてる間にちゃんとした答えが得られそうで、かつ惑星科学だと、対象は月がいいのかなと思っています。

かぐやデータ

Q:これからも研究を続けていくうえで期待することは?

私がこれから宇宙科学に期待するのは、協力関係です。宇宙開発への民間の参画や、超小型衛星の参入によって、宇宙が割とみんなのものになりつつあると思うんです。例えば、はやぶさ2って外から見ていると単に楽しそうにしか見えないかもしれないですが、2030年に向けて持ち回りで当番制でずっと運用を続けていて、ものすごく大変なんです。こんな時にAI運用者みたいなものが出来て、AIがこれまでの運用記録を全部集めて、最近流行りのChatGPTのようにアドバイスしてくれると本当にありがたいですよね。ノウハウを引き継ぐことができるし、自分たちの過去の運用って忘れてしまうので、当時はこうだったんだ、これやったらどうですかなんてアドバイスは非常に楽しみだったりします。また、先ほど紹介した検索システムはどんどん発展しています。将来的には高度な検索システムがおそらく出てくるので、情報科学系の研究者とコラボしてより使いやすい、驚くような検索システムを作りたいですね。
アルテミス計画では今まで宇宙と無関係だった人たちも興味を示しています。例えば建設業界の人たちが月面基地を作りたいって言ったときに、月のレゴリスを使ってコンクリートを作るにはどうしたらいいとか、水はどのぐらいあるのかないのかとか、そういったことを一緒に協力できると楽しいかなと思います。トヨタは月面車を作っていますよね。車を設計するのはものすごく緻密なデータが必要なはずなので、そういった一部データが欠けいてる部分に対して、どのように問題解決して行くのかって実は興味のあるところです。今までは自分たちが月のデータが欲しいとか、宇宙科学をしたいと思って、非常に限られたリソースでやってきましたが、これからはみんなが協力しあえる時代になってきているので、そういったところから科学データを取得できるプラットフォームができたらいいですね。なのでぜひ、宇宙開発に参加してもらいたいかなと思っています。

Q:皆さんにメッセージをお願いします。

宇宙の魅力って、ただそこにあるだけで楽しいですよね。 実際にJAXAで働いていて思うのは、色々なしがらみやストレスや仕事が忙しかったりするんですが、そういうことを全部取っ払ったときに何が残るかっていうと、夢だけが残るんですよ。純粋に楽しいっていうのがやっぱり宇宙の魅力なので、ぜひ、まずさわって触れてみて、宇宙の楽しさを知っていただいて、その後自分で何ができるのか、考えてみていただければ幸いかなと思います。ほんのちょっとずつでも進歩していけばいいなと思っています。

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