すざく
Suzaku (ASTRO-E2)
ミッションの解説
概要
「すざく(ASTRO-E2)」は、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が観測機器の一部をアメリカのNASAと共同で開発したX線天文衛星です。このミッションの目的は、高エネルギーX線領域における宇宙の観測を通じて、ブラックホール、銀河団、超新星残骸などの高エネルギー天体物理現象を解明することです。
「すざく」は2005年7月10日に打ち上げられ、2005年8月13日に初観測を行い、2015年8月に稼働を停止するまで、約10年間にわたって科学観測を続けました。円軌道で地球を周回し、その高度は約550 kmでした。衛星は約1.7トンの重さで、観測方向を常に制御し、様々なX線天体の観測をし、これまで不可能だった広いエネルギー領域(0.3-600keV)での観測を実施しました。
観測装置
X-Ray Telescope (XRT)
XRTは、0.3-12keVのエネルギー帯域を観測するために設計されたX線望遠鏡です。XRTの主な役割は、X線を集光し、焦点面に配置された検出器に導くことです。これにより、高い空間分解能と感度を持った観測が可能となります。
X-ray Imaging Spectrometer (XIS)
XISは、XRTによって集光されたX線を検出し、そのエネルギー分布を分析するX線イメージング・スペクトロメータです。この装置は、広いエネルギー帯域(0.2-12keV)での高いエネルギー分解能を持っています。XISの基本原理は、X線光子が半導体検出器に入射した際に発生する電荷を測定することです。
Hard X-ray Detector (HXD)
HXDは、10-600keVの高エネルギーX線を観測するための装置です。HXDはシリコン検出器とシンチレータを組み合わせたハイブリッド検出器で、広範なエネルギー帯域での高感度観測を可能にしています。これにより、高エネルギー天体物理現象の解明に貢献します。
Wide-band All-sky Monitor (WAM)
WAMは、HXDの一部として設計された広帯域全天モニターで、50 keVから5 MeVまでの広範なエネルギー範囲をカバーしています。ガンマ線バースト(GRB)や太陽フレアなどの突発的な高エネルギー現象を検出するために使用されます。検出器はシンチレータを使用しており、高感度で広い視野を持つため、全天の広範囲をカバーすることができます。
X-Ray Spectrometer (XRS)
XRSは、「すざく」衛星に搭載されたもう一つの主要な観測装置で、X線の高分解能スペクトルを取得するマイクロカロリメータ分光器です。XRSは、0.3 keVから12 keVのエネルギー帯域でX線を観測することができます。残念ながら打ち上げ後に機器の動作に必須な冷媒が気化し、機能を停止しました。
成果
「すざく」は、約10年にわたる科学観測運用を通じて多くの重要な成果を上げました。まず、銀河団内の高温ガスの詳細な観測により、宇宙の構造形成や進化の過程について新たな知見が得られました。また、ブラックホールへの物質の流入過程やそれに伴う高エネルギー現象について具体的なデータを提供しました。さらに、「すざく」によって高エネルギー粒子がどのように加速されるかについて、新たな手がかりがもたらされました。これらの成果は、世界最高レベルの感度を有する「すざく」の観測能力の賜物であり、宇宙物理学の発展に大きく寄与しています。なお、「すざく」ミッションは2015年8月に運用を終了しましたが、得られたデータは今なお多くの研究に活用されています。
参考文献
装置論文
- Koyama, K. et al. (2007) Publications of the Astronomical Society of Japan - X-Ray Imaging Spectrometer (XIS) on Board Suzaku
- Takahashi, T. et al. (2007) Publications of the Astronomical Society of Japan - Hard X-Ray Detector (HXD) on Board Suzaku
- Serlemitsos, P. T. et al. (2007) Publications of the Astronomical Society of Japan - The X-Ray Telescope onboard Suzaku
- Kokubun, M. et al. (2007) Publications of the Astronomical Society of Japan - In-Orbit Performance of the Hard X-Ray Detector on Board Suzaku
- Yamaoka, K. et al. (2009) Publications of the Astronomical Society of Japan - Design and In-Orbit Performance of the Suzaku Wide-Band All-Sky Monitor
- Yamaoka, K. et al. (2005) IEEE Transactions on Nuclear Science - Development of the HXD-II Wide-Band All-Sky Monitor Onboard Astro-E2
- Ohno, M. et al. (2005) IEEE Transactions on Nuclear Science - Preflight Calibration and Performance of the Astro-E2/HXD-II Wide-Band All-Sky Monitor
- Terada, Y. et al. (2005) IEEE Transactions on Nuclear Science - Development of a Monte Carlo Simulator for the Astro-E2 Hard X-Ray Detector (HXD-II)