太陽系科学研究系(宇宙プラズマ物理学) 篠原 育 教授
Q:これまでの経緯を教えてください。
大学院から地球磁気圏を観測するジオテイル衛星(1992年打ち上げ)のデータ解析、アーカイブに携わり、あらせ衛星のプロジェクトマネージャーをはじめたくさんの宇宙プラズマ物理に関連する衛星に携わってきました。
Q:宇宙プラズマ物理学、磁気圏物理学とは?
大変耳慣れない学問だと思います。画面を使いながら説明します。
宇宙プラズマ物理学とは
Q:具体的にどういうデータを使って研究している?
具体的にどういうデータを使っている?
Q:これまで研究してきて大変だったことは?
私たちの研究分野は目に見えないものを対象にしているので、カメラで写真を撮って、全体を把握するというようなことができません。その代わりに、人工衛星を飛ばし、衛星が宇宙に滞在することで、例えばプラズマの密度や、温度、速度、電磁場の変動などのデータを測って、そこで何が起こっているかを精密に理解することができます。でも究極的には、全体で何が起こっているかということを知りたいのに、その場で起こっていることしかわからないと、それぞれの因果関係を結びつけることがとても難しいです。だから、そのためにたくさんデータを集めて、その中から、因果関係に対する方針性を見つけるということをやりますが、どうしても1個1個の点の観測では限界があります。想像してみてください。天気予報の研究では、アメダスなどたくさんの地点で観測したデータが得られるからこそ、精度の高い天気予報ができます。でももし、たくさんのデータ点ではなく、例えば自分が住んでいる所のある1点だけの風や気温しかわからない、雲の動きも見えない場合、天気予報の精度はどうなると思いますか?1点の観測から、経験を積み上げつつ、物理法則を加味しつつ、太陽が変動した時に、地球や惑星がどのように応答・変動するかということを調べるのはとても難しいです。でも逆に言えば、非常に精密なデータを持っているので、それをたくさん集めて、正しいものを見つけていくことは、とても面白いことなので、難しいことをやっているのですがそれが非常に楽しいですね。もう一つ難しいと思うのは、こういう話を人に説明することが難しいということですね。自分たちの研究成果を人に伝えるためには、どうしても言葉が長くなってしまい、写真のようにひと目でパッと見せて、私たちはこういうことやってるんですっていうことをお伝えできない。それはとても残念に思っていますが、それでもいろんなことがわかってきているので、そういうところに興味を持っていただければ嬉しいなあと思います。
Q:この分野のデータが入手できるDARTSをどのように研究に活かしているか?
我々の分野の日本の衛星は、非常に長い期間観測をしたという特徴があります。DARTSには、1989年に打ち上がって26年間観測をしたあけぼの衛星のデータがあります。ジオテイル衛星は1992年に打ち上がって30年間の観測データがあります。それだけ長期間の観測をしているデータというのは、大変貴重です。太陽の活動に応じた変化を研究することは大きな目的であり、11年の太陽活動周期に対して、2周期以上、3周期近くの観測をしているということは、太陽活動周期ごとの個性を含めて、磁気圏がどのように応答するかということを研究することができます。大変貴重なデータをDARTSは持っています。
Q:これから先も研究を続けていくうえで期待することは?
太陽活動3周期に及ぶ、いろいろなバリエーションを含むデータから、新しい発見ができていくと思っています。今までは非常に短い時間スケールの現象に対してたくさんのデータを集めるというアプローチが主流でしたけれども、これからはもう少し長い時間スケールの中で、どういう変動をして、太陽活動に対してどう応答するかということを調べていくことができるので、そういうことを研究できるのが一つの楽しみです。 もう一つは、ある一点の観測で研究することの難しさを克服して行きたいなと思っています。将来的には非常に多くの衛星、例えば超小型衛星技術を使って、今までわからなかったような宇宙空間の中のつながりを明かして行きたいなと思います。
Q:皆さんにメッセージをお願いします。
ちょっとわかりにくい説明だったかと思いますが、宇宙と地球が繋がっていることを、なんとなくそういうことがあるということを知っていただきたいです。今や人類は月へ再チャレンジしようとしていますし、火星に人類を送ろうとしている時代です。人類の活動が広がるにつれて、宇宙空間での現象が、例えば宇宙放射線みたいなものが降り注いでくることは大変な障害になるわけですね。ですから、太陽活動変動に応じて、惑星、月、地球全部に対して大きな影響を及ぼしていて、より宇宙にさらされている環境(他の天体に行く時など)では、我々の研究成果は活きていくと思いますし、単にサイエンスとしての面白みだけではなく、宇宙開発とか宇宙進出に対して貢献することができるかなと思っています。なかなかわかりにくい分野で、難しい解析ではあるのですが、理解してくると非常に面白い分野です。写真から何を読み取るではなく、その場にいて、その場でなにかが起こっているかということをつかめるという、その醍醐味が私たちの分野の一番大きな特徴だと思っています。宇宙とまさに繋がっているということを実感するような研究分野なので、研究成果に興味を持っていただけるとうれしいと思います。