じきけん
Jikiken (EXOS-B)
ミッションの解説
概要
「じきけん (EXOS-B)」は、地球の周囲半径約6万から7万kmの範囲である磁気圏深部に至る領域の研究と、1976年から1979年にわたって実施された、国際磁気圏観測計画(IMS)への参加を目的として、東京大学宇宙航空研究所 (現:宇宙科学研究所) によって開発された磁気圏観測衛星です。 1978年9月16日に鹿児島宇宙空間観測所(現:内之浦宇宙空間観測所)から M-3H ロケットによって打ち上げられ、国際磁気圏観測計画(IMS) の一環として「きょっこう (EXOS-A)」との協調観測などを実施し、1985年に運用を終了しました。
主に地球の磁気圏とプラズマ圏における波動と粒子の相互作用を研究することを目的としています。
衛星の重量は 90 kg、高さ 0.6 m、対面寸法 0.75 m の 38 面体で、長さ 60 m の伸展式アンテナが側面に 90 度間隔で 4 本装備されています。 打ち上げ後、9月23日よりアンテナの伸展を開始しましたが、制御回路の温度が上昇する等の不具合が発生したため、全伸展を断念し、2 対のアンテナが等しい長さになるところで伸展を打ち切りました。
近地点高度 227 km、遠地点高度 30,056 km (初期) 、傾斜角 31 度の長楕円軌道に投入され、1 周 524 分の速さで周回しました。
観測装置について
Natural Plasma Waves-astronomy mode (NPW-A)
NPW-A は、自然発生するプラズマ波動を観測するための装置です。 長尺ダイポールアンテナ(51 m - 51 m アンテナ)を使って、木星や土星などの惑星からのヘクトメートル波 (HF) やデカメートル波 (MF)、地球からのキロメートル波 (LF) を、20 kHz から 3 MHz の周波数帯で受信します。
Natural Plasma Waves-VLF mode (NPW-B)
NPW-B は、非常に低い周波数(VLF)帯域のプラズマ波動を観測するための装置です。この装置は、ホイッスラー、コーラス、ヒスなどのVLF帯域の現象を捉えることができます。 長尺ダイポールアンテナを用いた広帯域 VLF 受信機で 10 kHz までの VLF 波を受信します。
Stimulated Plasma Wave experiment (SPW)
SPW は、人工的に刺激されたプラズマ波動を観測するための装置です。この装置は、30 ‐ 300 W の振動電解パルス (10 kHz - 3 MHz) をダイポールアンテナに印加してプラズマ不安定性を引き起こし、その結果生じる波動の伝導特性、粒子加熱を観測します。これにより、波動と粒子の相互作用を詳細に解析することができます。
VLF Doppler Technique (DPL)
DPL は、VLF 帯域のドップラーシフトを利用してプラズマ波動を観測する技術です。この装置は、地上からの VLF 電磁波 (NWC 22.3 kHz) を受信し、そのドップラーシフトを狭帯域で位相計測することで、磁気圏に存在するプラズマ・ダクトの検出、電子温度、電子密度分布などを観測します。
Magnetic Field measurement (MGF)
MGF は、地磁気のベクトル場とその変動を観測するための装置です。1.5 m のブームの尖端に取り付けられたフラックスゲート磁力計を使用して、磁気圏内の磁場の方向と強度を高精度で測定します。また、太陽と地球の検出器を用いて衛星の姿勢を特定します。測定範囲は ±51,200、±8,000、±1,048、±256 ガンマで、分解能は ±2 ガンマ (最大感度) を持ち、磁界 x、y、z 成分を測定します。
Impedance and Electric Field measurement (IEF)
IEF は、プラズマ圏内の電場を測定するための装置です。 周波数掃引インピーダンスプローブ (IEF-I) は、自然プラズマ波検出器の校正のための基礎データと、プラズマ波刺激に対する透過効率を推定するためのデータを提供します。このプローブの主な目的の1つは、他のすべての技術とは独立に電子密度を測定することであり、これは浮遊容量をキャンセルすることで正確に行うことができます。 電場計測装置 (IEF-F) は、51 m - 51 m のダイポールアンテナの先端部を電極とした円筒型プローブで電場を測定します。衛星本体を導電体でコーティングし、局所電界を除去することで自然電界を正確に測定します。また SPW や CBE によって励起された衛星電位の変動も検出することができます。
Controlled Beam Emission experiment (CBE)
CBE は、電子ビームを放出して宇宙船の電位を制御し、低エネルギー粒子の正確な測定を行うための装置です。この装置は、0 eV から 200 eV の電子ビーム (0 - 1 mA) を放射し、衛星の周囲のプラズマに対する電位制御を行うことにより、粒子や電場の計測の制度を上げます。また電子ビームによって励起されるプラズマ波動を NPW によって観測することを目的としています。
Energy Spectrum of the Particles (ESP)
ESP は、粒子のエネルギースペクトルを解析するための装置です。半球型正殿エネルギー分析器により 5 eV - 10 KeV の電子のエネルギー分布を、円筒型分析器により 20 eV - 30 KeV の範囲のイオンのエネルギー分布を測定します。これらの装置により、磁気圏内の粒子のフラックスの空間分布および時間変動を観測するほか、SPW、CBE によって励起された粒子分布の変化を観測します。 この装置は、波動現象と関連する粒子の挙動を観測する上で重要な役割を果たします。
得られた成果
「じきけん」の観測により、以下のような重要な成果が得られました。
- オーロラキロメートル波のメカニズム:オーロラキロメートル波の生成メカニズムに関するデータが収集されました。
- プラズマポーズの形成:プラズマポーズの形成過程についての理解が深まりました。
- 波動と粒子の相互作用:磁気圏における波動と粒子の相互作用の詳細な画像が得られました。
- 国際協力:GEOSなどの外国の科学衛星との通信とデータ交換が行われました。
- 低周波信号の受信:南極から送信された低周波信号の受信に成功し、磁気圏におけるプラズマと波動の相互作用の研究に貢献しました。
これらの成果により、地球の磁気圏とプラズマ圏における物理現象の理解を大いに進展させました。
参考文献
ミッション概要論文
- Obayashi, T. et al. (1979) Solar Terrestrial Environmental Research in Japan - Summary on JIKIKEN observation - Preliminary report for the initial phase of the observation results
- Obayashi, T. et al. (1980) Bulletin of ISAS - 第6号科学衛星「じきけん」
- Oya, H. et al. (1980) Bulletin of NIPR - 「じきけん」観測結果 : 初期観測の速報
- Oya, H. (1979) Science reports of the Tohoku University. Ser. 5, Geophysics - Summary on Plasma Wave Emissions Observed by JIKIKEN- Preliminary Report for the Initial Phase of the Observation Results