おおぞら
Ohzora (EXOS-C)
ミッションの解説
概要
「おおぞら (EXOS-C)」は、地球の中層大気の構造と組成の解明、磁気圏の観測、1982年~1985年に実施された、中層大気国際協同観測計画 (MAP) への参加を目的として宇宙科学研究所が開発した中層大気観測衛星です。 1984年2月14日に鹿児島宇宙空間観測所 (現:内之浦宇宙空間観測所) から M-3S ロケットによって打ち上げられ、1988年12月26日に運用を終了しました。
重量 207 kg、高さ 0.88 m、対面寸法 1.09 m の八角柱型で、伸展式の 20 m のアンテナが装備されています。 近地点高度 354 km 遠地点高度 865 km、傾斜角 75 度 の楕円軌道を、1周 97 分の速さで周回しました。
観測装置について
IRA、ALA、BUV、LAS は主に中層大気の構造と組織の解明を、 PPS、ESP、HEP、NEI、TEL、PLR は主に極域や南大西洋地磁気異常帯上空における降下荷電粒子―電離層プラズマ―大気の相互作用の解明を目的とした観測装置です。
InfraRed atmospheric band Airglow radiometer (IRA)
IRA は、赤外線帯域での大気光を観測するための装置です。 大気リムからの O<sub>2</sub> 1.277 μm 放射を利用して中層オゾンプロファイルを測定するほか、サーミスタボロメータを用いて CO<sub>2</sub> 15 μm 放射を測定し、衛星の姿勢とセンサの視線方向の接線高さの情報を得ます。 この装置は、大気中の微量成分の分布や変動を解析することができます。
Aerosol Limb Absorption (ALA)
ALA は、大気中のエアロゾルの吸収特性を観測する装置です。 波長 600 nm と 1000 nm の2チャンネルの太陽光度計で、各チャンネルの検出器には、1 km オーダーの垂直分解能を得るために2次元 CCD イメージセンサが使用されています。 エアロゾルの垂直分布を測定するために、太陽光の吸収スペクトルを利用します。これにより、大気中のエアロゾルの濃度や種類を特定することができます。
Backscattered middle UltraViolet radiation from the terrestrial atmosphere (BUV)
BUV は、地球大気で産卵された太陽紫外線を観測する装置です。 この装置は、北緯80度から南緯80度の範囲で、紫外線の波長帯域 (250 nm - 320 nm) での散乱光を測定し、大気中のオゾン層の状態や紫外線の透過特性を解析します。
Limb-Atmospheric infrared Spectrometer (LAS)
LAS は、大気の赤外線スペクトルを観測する装置です。 中層大気のH<sub>2</sub>O、CO<sub>2</sub>、CH<sub>4</sub>、O<sub>3</sub>、N<sub>2</sub>O、エアロゾルの全球的な観測を目的としています。 この装置は、赤外線の波長帯域でのスペクトルを測定し、大気中の微量成分の分布や温度プロファイルを解析します。
Planetary Plasma Sounder (PPS)
PPS は、惑星間プラズマの音響特性を観測する装置です。この装置は、プラズマ中の音波の伝播特性を測定し、プラズマの密度や温度を解析します。 直交する40m(先端から先端まで)のアンテナと 100 kHz から 16 MHz の掃引周波数受信機、および 500 Hz から 20 kHz の掃引周波数 VLF 受信機を使用して、主に2つの目的で運用されます。ひとつは高周波と VLF の両方で自然プラズマ波 (NPW) を受信することであり、もうひとつは高出力(最大 300 W)の RF パルス送信機を使った能動的なプラズマ波 (SPW) の観測実験である。
Energy Spectra of the low energy Particles (ESP)
ESP は、低エネルギー粒子のエネルギースペクトルを観測する装置です。 6 eV から 16 keV のエネルギー範囲の電子と 200 eV から 16 keV の正イオンのエネルギースペクトルとピッチ角分布を測定します。 この装置は、粒子のエネルギー分布を測定し、地球周辺の放射線環境を解析します。
High Energy Particle fluxes (HEP)
HEP は、高エネルギー粒子のフラックスを観測する装置です。 電子 (0.19 - 3.2 MeV) と陽子(0.64 - 35 MeV) のフラックスとエネルギースペクトルを観測します。 この装置は、粒子のフラックスを測定し、宇宙線や太陽風の影響を解析します。
Number density of Electron by Impedance Probe (NEI)
NEI は、インピーダンスプローブを用いて電子の数密度を観測する装置です。 長さ 45 cm、直径 2 cm のロッド型プローブの実効静電容量を 0.1 MHz から 16MHz の掃引周波数範囲で測定するように設計されています。 この装置は、プラズマ中の電子密度を高精度で測定し、プラズマの特性を解析します。
ELectron Temperature probe (TEL)
TEL は、電子温度を観測する装置です。この装置は、プラズマ中の電子の温度を測定し、プラズマのエネルギー状態を解析します。
Power Line Radiation (PLR)
PLR は、電力線からの放射を観測する装置です。ループアンテナと受信ユニットで構成され、3つの狭帯域フィルターによって電力線放射の基本周波数(50Hzと60Hz)を受信することができます。 PLR のデータは、電磁干渉の影響に関する研究に役立ちました。
MU rador Monitor (MUM)
MUMは、MUレーダーを用いて大気の観測を行う装置です。この装置は、大気中の風速や温度を測定することで、大気の動態を解析します。MUMのデータは、大気物理学の研究に貢献しました。
得られた成果
「おおぞら」は、中層大気の微量成分による太陽光の吸収スペクトルの観測や、極域および南大西洋磁気異常帯における高エネルギー粒子の観測等において貴重なデータをもたらし、地球の大気および電磁環境の理解に大きく貢献しました。
参考文献
装置論文
- Suzuki, K. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - The BUV Experiment for the Satellite “OHZORA”
- Oya, H. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Leaked AKR and Terrestrial Hectometric Radiations Discovered by the Plasma Wave and Planetary Plasma Sounder Experiments on Board the Ohzora (EXOS-C) Satellite—Instrumentation and Observation Results of Plasma Wave Phenomena
- Tomizawa, I. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Power Line Radiation Observed by the Satellite “OHZORA”
- Nagata, K. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Ohzora high energy particle observations
- Mukai, T. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Initial observation of low-energy charged particles by satellite Ohzora (EXOS-C)
- Takahashi, T. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Observation of electron density by the impedance probe on board the Ohzora (EXOS-C) satellite
- Oyama, K. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Electron temperature probe on board Japan's 9th scientific satellite 'Ohzora'
- Fukao, S. et al. (1985) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Monitoring of the MU Radar Antenna Pattern by Satellite OHZORA (EXOS-C)
- Matsuzaki, A. et al. (1985) Journal of the Meteorological Society of Japan - On observation of middle atmosphere with LAS (limb-atmospheric infrared spectrometer) on board of satellite 'Ohzora' (EXOS-C)
- Takagi, M. et al. (1988) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Initial results of the satellite 'Ohzora' observation of stratospheric aerosol and ozone
- Yamamoto, H. et al. (1988) Journal of Geomagnetism and Geoelectricity - Infrared Atmospheric Band Airglow Radiometer on Board the Satellite OHZORA